宇宙探査イノベーションハブの共同研究成果
~JAXA、極地研、ミサワホーム及びミサワホーム総合研究所の連携による
「南極移動基地ユニット」の実証実験の実施について~

2019年8月26日
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
宇宙探査イノベーションハブ
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所
ミサワホーム株式会社
株式会社ミサワホーム総合研究所


  • 地球上の極限環境下・南極で「持続可能な住宅システム」の構築を目指した実証実験
  • 「簡易施工性」「自然エネルギーシステムによるエネルギーの最適化」「センサーによるモニタリング」等を検証
  • 4者共同研究により、未来志向の住宅・南極での基地建設・月面の有人拠点の開発を目指す



  • 南極移動基地ユニット(イメージ)※1

  • 南極移動基地ユニット輸送時のイメージ

  国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(理事長 山川宏、以下 JAXA)、大学共同機関法人情報・システム研究機構国立極地研究所(所長 中村卓司、以下 極地研)、 ミサワホーム株式会社(代表取締役社長執行役員 磯貝匡志、以下 ミサワホーム)、株式会社ミサワホーム総合研究所(代表取締役社長執行役員 千原 勝幸、以下 ミサワ総研)の4者は、 極限環境下での持続可能な住宅システムの構築を目的とした実証実験を、南極・昭和基地で2020年2月より実施します。

  •   ※1:ユニット2基の連結作業完了後のイメージです。

実証実験の背景

  ミサワホーム及びミサワ総研は、2017年にJAXAが実施する「宇宙探査イノベーションハブ」の研究提案募集※2において、 「建築を省力化する工法技術」と「住宅エネルギーの自律循環システム」の開発による「持続可能な新たな住宅システムの構築」を提案し、採択されました。
  JAXAとミサワホーム及びミサワ総研は、地上における未来志向の住宅や、月面等の有人拠点への応用を目指して共同研究を進めてきましたが、 宇宙空間における有人拠点に求められる「簡易施工性」「自然エネルギーシステム」「センサー技術を活用したモニタリング」等の技術要素は、南極という環境下においても要求されるという共通点について、極限の環境下で検証することにより、技術の信頼性を高められると考え、 南極・昭和基地をフィールドに選定し、「南極移動基地ユニット」を製作し※3、 昭和基地の運営を担う極地研が実施する「第61次南極地域観測隊の公開利用研究※4」 に「極地における居住ユニットの実証研究」を提案しました。
  昭和基地の建物には、1957年の開設当時から、南極の過酷な環境に耐えられる堅牢性と、夏期の限られた期間に建築の専門家ではない隊員でも 簡易に施工できる簡易施工性が求められてきたことから、極地研ではこのユニットの技術要素が今後の南極における基地建設にも大いに寄与すると考え、この南極移動基地ユニットの実証実験の提案を採択し、極地研、JAXA、ミサワホーム及びミサワ総研の4者と連携して 昭和基地での実証実験に取り組むことになりました。

  • ※2:JAXAが国立研究開発法人科学技術振興機構から「イノベーションハブ構築支援事業」(「太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ」)に関する研究提案募集の受託を受け、地上の優れた技術を宇宙探査技術と融合させることで、宇宙開発のみならず、新たな産業創出による日本の産業振興を目指し、JAXAは「宇宙探査イノベーションハブ」を2015年に発足しました。
  • ※3:ミサワホームは1967年より、南極における基地建設等に協力しています。高度に工業化され、建築経験のない観測隊員でも短期間に施工できる設計ノウハウや、南極の過酷な自然環境にも耐える性能を有しています。
  • ※4:公開利用研究とは、大学等の研究者が、昭和基地や南極観測船「しらせ」などの南極地域観測事業のプラットフォームを利用し、事業計画の枠組みに縛られることなく南極の科学的価値を最大限に活用し、かつ比較的短期間に集中して研究を推進することを目指したプログラムです。

実証実験の概要

1.南極移動基地ユニットの概要

  • 寸法:約6,100mm×2,500mm×3,050mm、床面積約11.82m2
    ユニットを2基連結することにより、床面積32.88㎡に拡張
  • 構造:鉄骨ユニット構造 + 木質接着複合パネル(厚さ120mm)
  • 外壁材:ガルバリウム鋼板、太陽光発電モジュール(以下、PVモジュール)
  • 実証実験における想定環境:年平均気温-10.4℃、最低気温-45.3℃、最大瞬間風速61.2m/s等
  • その他:コンテナ輸送用に使用するソリを装着
    居住者の安全見守り及び耐久モニタリングセンサー等を搭載


南極移動基地ユニット(イメージ)



2.検証内容

  今回の実験では、以下の3項目について検証します。ミサワホームおよびミサワ総研はユニットの製造ならびに未来一般住宅への検証データの展開を検討し、極地研はユニットの輸送ならびに 南極におけるユニットの機能検証実験を行い、JAXAはユニットの技術支援、検証データの分析ならびに有人拠点建設への展開を検討する予定です。

(1) 構造物の柔軟な拡張・縮小の検証
構造体に開口部や換気設備、電気配線、内・外装材、PVモジュール等を予め装備したユニット2基を設置場所で連結し、その間にジョイントスペースを設けることで居住空間を拡張します。 その後、1基ずつのユニットへ縮小する作業を行います。この際の施工の簡易性や今回のために開発した施工治具、 作業支援センサーの南極での実効性について検証します。

(2) エネルギー利用の最適化の検証
自然エネルギーシステムは、太陽光発電と集熱蓄熱システム等により、ユニット内部の暖房エネルギーの利用最適化を実施し、その効果を検証します。 また、ユニットは、120mm厚の木質系高断熱パネルをベースに、付加断熱を施し、断熱性能の目標値をUA値※5 0.20w/㎡・kとしています。この数値は、 日本における寒冷地域(北海道や東北の一部※6)のZEH※7基準であるUA値0.4 w/㎡・kを大幅に上回る数値であり、国内最高レベルの断熱性能となります。 これらの断熱技術による省エネルギー性能を検証します。

(3) センサーを用いたモニタリングの検証
ユニットには、温湿度・CO2検知、火災検知などの居住者の安全を見守るセンサーを搭載しています。これらをモニタリングすることで、ユニットの状態をリアルタイムに把握し、居住空間の安全性・快適性等を検証します。

  • ※5:住宅の断熱性能を表す「外皮熱貫流率」のこと。
  • ※6:住宅・建築物の省エネルギー基準における地域区分の1・2地域を指します。
  • ※7:標準的な新築住宅で年間の一次エネルギー消費量が正味で概ねゼロとなる住宅のこと


3.実証実験までのスケジュール

2019年

  • 7月~:ミサワホーム名古屋工場にて居住ユニット制作中
  • 10月下旬:南極移動基地ユニットのお披露目、4者合同記者会見(予定)
  • 11月:東京港にてコンテナに積込み、南極観測船「しらせ」で昭和基地に向け輸送

2020年

  • 1月:昭和基地に到着
  • 2~9月:昭和基地内での実証実験


4.今後の展開

<極地研・ミサワホーム>
昭和基地での実証実験終了後、南極移動基地ユニットを標高3,800mの南極内陸のドームふじに輸送し、第3期ドームふじ氷床深層掘削計画の居住空間(最大18名)として利用することを計画しています。その間もセンサーによるモニタリングを継続し、今後の南極での基地建設に活かしていく予定です。

<JAXA・ミサワホーム・ミサワ総研>
共同研究の成果を応用し、地上における未来志向の住宅や、宇宙における月面の有人基地への展開を目指します。


<<参考資料>>


関連サイト



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