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クロスアポイントメント インタビュー①
第1回RFP「固体化マリンレーダーの開発」、第4回RFP「高機能化マリンレーダーの開発」は当初より、 はやぶさ2のカプセル回収の際に活用できると考えられ進められた研究です。上記2件の研究課題の提案者でもあり、※クロスアポイントメント制度を利用して JAXAに出向し、チームを主導して共同研究をおこなった光電製作所の林大介さんにインタビューを行いました。
※クロスアポイントメント制度:国内外の研究者等の受入れを促進するため、所属機関に縛られることなく研究者等が活躍できることを目指した制度です。研究者が企業・大学・研究機関等(出向元)とJAXA(出向先)の双方で雇用されつつ、それぞれの機関の役割に応じて研究開発業務に従事することができます。JAXAでは、2015年3月にクロスアポイントメント制度による職員受入制度が整備され、宇宙探査イノベーションハブでも制度を利用した職員を受け入れています。
株式会社光電製作所 林大介さん
Q1.クロスアポイントメントになったきっかけを教えてください。
A:JAXAが保有する高出力半導体アンプの設計技術を習得させて頂くということが目的でした。 固体化マリンレーダーの開発では半導体アンプの開発が最も大きな課題でしたが、残念ながら 当時私たちの会社にその技術はありませんでした。単にJAXAにご協力頂いてレーダーを完成させることは容易でしたが、それでは共同研究終了後に私たちが得るものはJAXAと完成させ たレーダーだけです。共同研究終了後も私たちが独自に派生製品を開発していくためには、 ただ完成させるのではなく、その技術を“身に着ける”必要が あります。そこで私がクロスアポイントメントとなり、JAXAの豊富な研究設備をお借りし、指導を受けながら設計することで、当社の将来的な開発にもつなげていきたいと考えました。
Q2.はやぶさ2の回収に使われることは当初から決まっていましたか?
A: はや2のお話は研究開始当初からありました。課題設定に際して当時ハブ長だった國中先生と何度もお話しさせて頂いたのですが、私たちが伝えたのは私たちが抱える事業上の課題(半導体アンプの開発)だけ で、宇宙応用という視点は皆無でした。カプセル回収への適用は國中先生に与えて頂いた視 点でしたが、それが本当にカプセル回収に適用したいというお考えだったのか、それとも課題 を成立させたいがために考案した“方便”なのかは、正直私にもわかりません(笑) 。いずれにし ても研究開始当初は、まさか私たちが自らマリンレーダーを携えてオーストラリアの地に行くと は、夢にも思っていませんでした。技術検討までとか、機材提供だけなどかと・・・。
Q3.クロスアポイントメントとしてJAXAに入っての感想を教えてください
A:探査ハブでもはや2でも、ひとつの会議で扱うテーマの種類・数の多さに驚きました。取りまと める人はもちろんのこと、議論に積極的に参加する人も、皆さんこれほどの多種多様なテーマ に、よく的確な意見・質問ができるものだなぁと感心したのを覚えています。おそらく記憶力の良さや知識の広さがすごいのだろうなと思いました。
Q4.共同研究するにあたり、クロスアポイントメントとして参加したメリットはなんですか
A:第一のメリットは、最初の回答にも記載しましたように、半導体アンプの設計技術を当社の技術 とすることができたことです。そうでなければレーダーが1機種完成しただけでした。ですが お蔭様で派生製品の開発にも取り組めるようになりました。また、抽象的ですが、単に会社に 所属したままで共同研究に取り組むよりも、JAXA側の視点・会社側の視点を両方体感できたように思うので、個人的に得るものは多く、視野を広げられたようにも思います。
Q5.JAXAに入って意外だったことなんですか
A:JAXAに入って最初の年(2016年)、大西宇宙飛行士が搭乗するソユーズの打ち上げがありました。 JAXAの職員の人に「林さん見に行こうよ」と声をかけて頂き、探査ハブ2F執務室のスクリーンで、 他のハブの方々ととも打ち上げのライブ配信を見ました。大西宇宙飛行士の様子とか、ソユーズ内部などについて話しながら打ち上げを待って、打ち上げの成功を皆で喜びました。私のような素人か らすると、これまで何度か日本人が宇宙へ行き、打ち上げも何度も成功しているので、JAXAの方々 は「あ、今日打ち上げだったんだ」といった感じでライブ配信など見ず、クールな感じなのかと思って いたのですが、皆意外と熱い感じで打ち上げを見守っていたことが印象的でした。加えて言えば、勤務時間中に幾人もの人がただ配信を見続ける、というのも驚きでした。 あと、些細なことですがメールが多いのにも驚きました。特に動物系(スズメバチ、蛇、蛾)のメールが面白いなぁと。季節の風物詩のような・・・
Q6.会社(家族)の反応はいかがでしたか?
A:家族は、あまり表には出しませんが、子供たちは父親がJAXAで働いているということで少し誇らし げに感じている様子でした。クロスアポイントメントがなくなってJAXA職員じゃなくて残念がって います。会社でも頑張っているんですけどね・・・。会社では、実質以上に優秀に見られがちで困って います。昔の田舎で言う“東京にいたことのある人が徒に尊敬されたり、村議会議員とかになっ ちゃったりする”みたいな感じですね。
Q7.クロスアポイントメント終了後、JAXAでの経験をどう生かしますか?
A:得られた技術(アンプ設計)を活かすことは当然として、開発課題の進め方、スケジュール管理の 方法、意義ある会議の作り方など、プロジェクト遂行に関して学んだことも多いので、会社での業務 に活かしていきたいです。
株式会社光電製作所
技術グループ開発部
博士(工学)
Profile
株式会社光電製作所 技術グループ 開発部所属。好きな言葉はBenjamin Disraeliの「経験は思考から生まれ、思考は行動から生まれる」。趣味は読書と旅行。 物理科学研究科 宇宙科学専攻修了。受賞歴
- ・2020年度「海図生成技術SEAMLESSの提案と実証」で計測自動制御学会の論文賞・蓮沼賞を受賞
- ・2021年度 「高機能フェーズドアレー式マリンレーダ―開発とはやぶさ2カプセル追跡運用」で2021年度JAXA理事長賞を受賞