JAXA 宇宙探査イノベーションハブ はやぶさ2カプセル回収レポート

宇宙探査イノベーションハブではこれまで株式会社光電製作所と第1回RFPでは「固体化マリンレーダーの開発 」、 第4回RFPでは「高機能化マリンレーダーの開発 」と2回にわたり共同研究を行ってきました。この研究は当初より、 はやぶさ2のカプセル回収の際に活用できると考えられ進められた研究になります。 今回、クロスアポイントメント制度でJAXAへ研究者として参画されている光電製作所の林さんによる現地レポートをお届けします。

2021/1/8

「はやぶさ2」カプセル回収ミッション マリンレーダー運用チーム
光電製作所 林大介




  • 星空とマリンレーダ

はやぶさ2カプセル回収 ミッション はじまり

 12月6日に帰還した「はやぶさ2」のカプセル回収ミッションに、マリンレーダー運用チーム(MRS班)として参加してきました。 チームメンバーはJAXAから3名、光電製作所から6名の計9名です。9名で4つのサイトにマリンレーダーを設置し、帰還カプセルの着地点推定のための探索を行いました。

 機材設置は2チームに分かれ、11月27、28日の2日間をかけて行いました。設置においては機材の転倒防止策や雨・日射対策など多数の屋外作業があるのですが、 よりによってこの2日間が現地で活動した期間の中で最も暑かったです。初日は40℃超えで、作業開始時間を比較的日差しの弱い時間帯にシフトすることで何とか乗り越えましたが、 2日目は午後から45℃を超えるということで、DOD(オーストラリア国防省)のレギュレーションから午後の屋外作業は中止になってしまいました。結果47℃。間に合わなかった作業は翌日以降にキャッチアップしました。 機材設置完了後、MRS班は各サイトへのアクセス性から3つの拠点に分かれました。ウーメラ・グレンダンボ・プロミネントヒルです(分かれる前は全員ウーメラ)。 ウーメラはELDOホテルという宿で、回収隊のほとんどの人が泊っています。昨年のリハーサル時にも利用しており、申し分ない環境です。グレンダンボはモーテルです。 モーテルが故か宿泊施設にやや難がありシャワーが塩辛かったりするのですが、ここでの最大の難点は通信環境の脆弱さです。ここにMRS班の副リーダーが宿泊していたのですが、コミュニケーションがままならずに苦労しました(電話で話しても一昔前の衛星中継のような遅延があります)。 副リーダーはミッションに必要な共有データを受信するときには、休日にELDOホテル付近まで移動してダウンロードをしていたそうです(片道1時間強)。

 私の拠点はプロミネントヒルでした。ここはOZ Mineralsという会社が運営する鉱山の労働者用の宿泊施設です。 一般に開放している宿ではなく、今回特別に宿泊させてもらったようです。 鉱山労働者の宿ということで屈強な男たち(入れ墨有)がたくさんいます。 一見怖く、同宿のMRSメンバーとバーで飲んでいるときなど「絶対絡まれる!」と思っていたのですが、彼らも我々のミッションを理解してくれているらしく、 絡まれるようなことは決してなく、気さくに挨拶してもらい、「宇宙関係で来てるんだろ?」と話しかけられたりしました。 私たちは毎晩バーで飲んでいたので、ある日仕事で使用する30㎝四方のバッテリーを抱えて歩いていたら「中身はビールかい?」などとも聞かれました。 何より、ミッション成功後、すれ違う人々に「おめでとう!」と声をかけられたのは大きな喜びでした。

 翌日からヘリコプターを用いた方位角確認試験、リハーサル、機材最終チェックと行っていき、本番へと臨むのですが、日々の活動の中で悩まされたのは通勤の悪路でした。 通勤経路に舗装路はなく、すべてダートなのですが、先導するDODのエスコータ―の方々はダートでも舗装路並みの高速スピードで運転をします(怖い)。 追いかけるのに必死でした。また私たちは基本的にエスコータ―の後ろを走るのですが、その場合先導車の巻き上げる砂埃をモロにかぶるため視界不良になります。 車間距離が大事です。MRS班ではスタック1回、オーバーヒート2回、タイヤのパンクが1回ありました。


  • 機材設置準備の風景


はやぶさ2 カプセル 回収 運命の12月6日を迎えて

そうしていよいよ本番です。私たちは2018年からこの回収チームに参加し、内之浦宇宙空間観測所での試験、昨年のリハーサルにおける試験など、 2年以上の活動を経てこの地にいます。すべてはこの日の一瞬ともいえる探索のためです。前日夜は冗談ではなく本気で空に祈りました。「どうかきちんと探索できますように」 「恥ずかしくない結果になりますように」

12月6日、現地時間午前3時55分に、レーダの測定※1、データの記録を開始しました。とともに外に出て火球を探します。4時頃火球発見、 素人の私は火球が尾を引くような光景を思い描いていたのですが、実際には白く光る小さな球が揺れている感じでした。 しかし揺れの感じが流れ星などとは異なり、人工的に投入された物だとの印象を強く受け、感慨深い思いでした。 火球確認後キャラバンに戻りレーダ画面を見つめます。4時8分私たちのサイトで最初の探知信号を確認しました。初探知の距離は21.3 km。 そこからカプセルを追尾していきます。追尾中は「がんばれレーダ」「もう少し」「あともう1点」などと叫びながら運用していました。 そうして追尾運用が終わった後、各サイトの運用結果を確認しました。結果としてMRS班では3つものサイトでカプセルの追尾に成功しました。 レーダは1つのサイトだけでも位置の特定までが行えるため、1つのサイトでも探知できれば十分と考えていたことから考えると、期待を上回る成果でした。 また、その最大探知距離は30km以上、レーダの最終探知結果と実際のカプセル着地点との距離の差は200m程度と、大変優秀な成果であったと考えます。


  • 機材設置完了

無事、ミッションは成功し、、それから。。

12月7日に機材撤収を行って再びウーメラに戻った際、本部の皆さんに「よかったね」と声をかけて頂けたのはとても嬉しかったです (一番言われたのは「焼けたねぇ」でしたが)。また9日ぶりに全MRSメンバーに会って喜びを分ちあえたのも良かったです。

今回、このように大変貴重な機会を得ることができたのは、2016年から宇宙探査イノベーションハブの活動に参加させて頂いたのがすべての始まりです。 深く感謝致します。このミッションで光電チームは社内でも比較的若い人材を登用したのですが、 いつにも増した彼らの目の輝き、真剣さを見られたことは、ミッション成功とは別の喜びがありました。 エピソードはまだまだあるのですが、公式には中々書き難いこともあるので、それはまた別の機会にでもお話させて頂ければと存じます。

※1  マリンレーダーでは回転するアンテナから電波を送信し、カプセルから反射された信号を再び受信するまでの時間を計測することでカプセルまでの距離と方位を測定します。



ウーメラの夜空
ウーメラの夜空とマリンレーダ


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