解決すべき技術課題

宇宙探査イノベーションハブでは以下の4つの技術課題に沿って情報提供・共同研究の募集をおこなっています。その他にも毎回新しい領域を設定して募集をおこなっています。

1.「広域未踏峰」探査技術

従来の大型探査機では時間とコストがかかり、また、探査の機会が少ないため、探査場所が限定されます。そこで、一点豪華主義から分散協調型への発想の転換を行い、複数の小型探査機により機能の分散を行なうことで、未踏峰地点の広範囲で密度の濃いチャレンジングな探査を実現し、探査手法に革新を起こします。例えば、多数の小型ロボットを一回のロケットで打ち上げ、月や火星表面の10km四方の領域に配置し、一挙に探査できる革新的な技術の獲得を目指します。分散されたロボットがお互いに協調し、1台では成し得ない、高度な観測や協調作業、位置同定、信頼性確保などを行います。我が国が誇るロボットを融合させた独自の探査技術を創出し、世界を牽引する宇宙探査を実現します。本テーマを通じて、火山・台風・災害など自然現象の新たな観測システムの構築、工場内のプラントや大型構造物の計測や検査など地球上の広域自動観測分野への応用が期待されます。

広域未踏峰探査技術

2.「自動・自律型」探査技術

将来の月あるいは火星表面に構築される有人拠点の建設技術の獲得を目指します。月や火星には人を多数送り込めないため、拠点の建設は原則無人で行います。地球からの全指令型システムから脱却し、現地で周囲情報の収集・認識を行い、遠隔操作と自動・自律を高度に組み合わせた建設技術の獲得が課題です。その実現には、ICT技術や環境認識技術等の様々な技術が必要であり、地上で実績のある技術の適用が期待されます。そして、ここで作り出した技術により人と機械を効率的に組み合わせることで、地上においても、遠隔地作業等の新たな展開を目指します。

自動・自律型探査技術

3.「地産・地消型」探査技術

月・火星へは、地球低軌道と比較して、輸送コストが10倍程度となります。このため、月や火星での持続的活動を可能にするには、必要な物資を「地球からすべて運ぶ」という探査のやり方を改め、必要な物資を「現地で調達する」というパラダイム転換が必要になります。我が国が得意とする省エネルギー、リサイクル技術、資源精製技術、農業・バイオ技術等を応用し、必要な物資を現地の資源やエネルギーを利用して、効率的に生産できるシステムの獲得を目指します。また、これらの技術は、地上においても、これまで未利用だった低質資源の有効利用、環境負荷の少ない物資生産、離島・僻地などでの資材の現地生産、効率的な食糧生産などへの適用を図っていきます。

地産・地消型探査技術

4.共通技術

熱や電力などのエネルギー技術、自動運転などに必須な周辺環境計測技術、IoT 等の情報通信技術等、「広域未踏峰探査」「自動・自律型探査」「地産・地省型 探査」に共通して必要となる要素技術の獲得を行います。高性能で安全な全固体電池、光ディスク技術を応用した遠距離光通信技術、超高感度な2次元同時画像センサ、機械的な回転部分を持たない低コストレーダー等、こうした技術は地上の技術と親和性が高く、地上においても革新を起こすことが期待されています。

共通技術

新しい技術課題

4つの技術課題の他に、新しい技術課題を設定しています。なおこちらの領域の募集は固定ではなく、毎回変わります。

宇宙医学/健康管理技術

将来有人探査活動(月面・月周辺、火星表面・火星周辺)における宇宙飛行士の健康管理運用に向けて、現在の国際宇宙ステーション(ISS)で行っている健康管理運用と比較し、技術的に足りないと思われる課題を「技術ギャップ」として識別しました。この技術ギャップを埋め、国際協力で実施することになる将来有人探査ミッションでの健康管理運用において、我が国が貢献できる領域(ハードウェア、薬剤、手法等)の獲得を目指します。
宇宙環境の人体影響と老化現象との共通性やリソース制約下での医療など、宇宙飛行士の健康管理技術は地上の医療分野への応用が期待できる多くの領域を有しており、その発展による民間ビジネスへの展開が期待されます。


有人与圧ローバ

有人与圧ローバは、月探査全体の目的である「人類の活動領域の拡大」と「新たな科学的知見の獲得」に向けて、月面における有人・無人による広域探査活動を実現するものです。具体的には、2020年代後半より、宇宙飛行士2名が搭乗する有人与圧ローバ2台により、月の南極エイトケン盆地の探査地点を有人・無人により探査します。ミッションの頻度は1年に1回、1回の探査は42日(地球日)、1回の有人探査での走行距離は約1,000kmを想定し、有人探査終了後、有人与圧ローバは次の地点に向けて、無人走行で移動します。
有人与圧ローバの実現に向けて、月面環境(路面、温度、真空、放射線等)に対応した走行技術、電力供給技術、熱制御技術、環境制御・生命維持技術等が課題となります。


水素利用

JAXAでは、月面資源のその場利用(ISRU: In-Situ Resource Utilization) に係る技術の獲得を目指しており、特に現在、月面での存在の可能性が期待されている水資源を用い、抽出した酸素・水素を離着陸機等の推薬として利用する推薬生成プラント構築のための検討を進めています。
ロケットの推薬となる液体酸素と液体水素を月の現地で手に入れることができれば、地球からもって行かなくてはならない推薬を大幅に削減することができ、これによる持続的な月探査の実現を目指します。
推薬プラントを構成する技術は、レゴリスの掘削や運搬、そこからの水の抽出、電解、液化、保存等の要素で構成されます。これらは、地上の土木技術への応用や、将来地上でも普及が期待される水素エネルギー関連技術への応用が期待されます。


民生ロボット

有人宇宙活動を持続的に進める上で、人は人でしかできない高度で創造的な作業に充て、ロボット技術(遠隔操作、自動・自律化)の導入効果が高い汎用作業や危険な作業をロボットに代替させることが望まれています。JAXA有人宇宙技術センターでは、このような世界を国際宇宙ステーション(ISS)、そしてその先の月探査において早期に実現するため、民生ロボット技術を積極的に活用しながら自動化・自律化の研究を進めています。
宇宙でのロボット技術の適用に当たっては、重力の違いや通信の遅れといった宇宙特有の条件下で、人や周辺構造に危害を加えず安全かつ確実にタスクを実行させる技術が求められます。このような技術は、社会で取り組まれている災害救助ロボットや農業・家事代行ロボットの実現にも寄与するものと考えています。


環境制御・生命維持システム(ECLSS)

将来探査では、地球低軌道と比較して、輸送コストが数十倍かかると言われています。有人探査ミッションにおいては、必要な物資を「地球からすべて運ぶ」やり方を改め、「一度持ち込んだ物資を再生して利用する」方式を採用する必要があります。本領域では、ヒトが宇宙空間で生活するために極めて貴重な「空気」と「水」の再生に取り組み、閉鎖空間内で物質を循環させ、地上からの補給量を極力削減できるシステムの獲得を目指します。
空気再生分野では、二酸化炭素の利活用技術を確立し、地球温暖化対策への貢献を目指します。水再生分野では、省エネルギー型の水処理施設の構築に貢献します。